【2020年】買って後悔したもの10個

いろんな小説のセックスシーンを集めてみた【随時更新中】

ふと「古今東西の小説に登場するセックスシーンを集めてみたら面白いのではないか」というアイデアが降ってきました。

 

深夜に思いついただけのゲスいアイデアかと思いきや、意外と他にやっている人がいないようなので、やってみることにします。

 

まだ少ないですが、そのうち追加していきますので、長い目で見守ってください!

 

ぜひ夜のお供に……。

 

注意
読みやすくするために、僕の勝手な判断で改行していますので、原文とは少し違います。ご注意ください。



貴志祐介『新世界より』 

 

1000年後の日本を舞台にした長編SF。

時代は違えど、人間のセックスは今と変わりません。

 

1000年後の日本をイメージしながら読んでみてはいかがでしょう。

その晩、かまくらの中で、わたしたちは結ばれた。

 

生まれて初めて男性の侵入を受けたとき、予想外の痛みがあった。真里亜との間では、豊富な性体験があったが、男女の間の性行為はまったく意味合いが違うことを、文字通り、痛感させられたのだ。

 

「だいじょうふ? 痛い?」

途中で動きを止めて、覚が、訊く。

「う……ん。ちょっとだけ、待って。すぐ慣れるから」

 

わたしは、歯を食いしばって答えた。

 

男と女は、どうしてこう不公平にできているのだろう。わたしは、心の中で文句を言う。

 

女性は、四十週にも及ぶ妊娠期間中、ひたすら不便を堪え忍んだ上に、男性にはとうてい我慢できないほどの痛みに耐えて、出産しなければならない。それなのに、なぜ、性行為にまで苦痛が付きまとうのか。

 

「無理しなくてもいいんだよ」

「平気。……覚は、痛くないの?」

「全然」

 

それから、ふと気がついた。覚はわたしがひどく痛がっていることは百も承知なのに、いっこうに興奮は収まっていない。わたしの苦痛に同情するどころか、まるで、そのことに快感を覚えているようではないか。なんて、ひどい奴だろう。

 

だが、しばらくすると、痛みは徐々に和らいでいった。かつてないほど、潤っているのを感じる。一方的に征服される立場に、歓びを感じているのは、わたしの方だった。

 

わたしが、思わず声を漏らすと、覚は、「気持ちいい?」と訊く。

「馬鹿」

訊かずもがなの質問である。わたしは、答えの代わりに、彼の背中を引っ掻いた。

 

これでもう、処女ではなくなってしまったのだから、次回の身体検査をどう乗り切るか、考えておかねばならない。つくづく、こちらにばかり、問題が降りかかってくるようになっている。

 

覚の動きが、激しくなってきた。快感の渦に呑み込まれそうになりながらも、ちょっと待ってと、わたしは慌てる。妊娠してしまっては、本当に、困ったことになるからだ。

 

だが、わたしが制止する前に、覚は、ぴたりと動きを止めた。

 

一瞬、避妊のことを考えてくれたのかと思ったが、そうではなかった。

覚は泣きそうなくらい愛おしげな目で、わたしを見下ろしている。

 

わたしは、ほとんど直感で悟った。彼のこの表情は、わたしに向けられたものではない。なぜかはわからない。だが、覚が私の中に見ていたのは、彼が愛してやまなかった、一人の男の子の面影なのだ。

 

同時にそれは、わたしが、心の底から恋い焦がれていた少年のものでもあった。

 

覚は、再び、動きを加速した。

 

わたしもまた、さっきまでとは比較にならない速度で上り詰めていく。わたしを逞しく貫いているのも、もはや、覚ではなく、別の少年のイメージに変わっていた。

 

わたしたちは、お互いを媒介にし、すでにこの世にはいない男の子と愛を交わしていた。それは、とんでもなく異常な行為だったかもしれないし、お互いに対する裏切りと言えるかもしれない。でもわたしたちは、二人とも、そのことを承知し、そして望んでいたと思う。

 

わたしが、絶頂を迎えた直後、覚は、転がるようにわたしから離れ、かまくらの雪壁に精を放った。

 

 

三島由紀夫『憂国』

 

軍人とその妻が人生の最後に行ったセックスです。

このセックスシーンの後、二人は自殺します。

 

濃密で古典的な文章で描かれるセックスシーンは圧巻。

日本語ってこんなエロかったんだ……。

 

中尉は烈しく妻を掻き抱いて接吻した。二人の舌は相手のなめらかな口の中の隅々までたしかめ合い、まだどこにも兆していない死苦が、感覚を灼けた鉄のように真っ赤に鍛えてくれるのを感じた。

 

まだ感じられない死苦、この遠い死苦は、彼らの快感を精錬したのである。

 

「お前の体を見るのもこれが最後だ。よく見せてくれ」

と中尉は言った。そしてスタンドの笠を向うへ傾け、横たわった麗子の体へ明りが棚引くようにしつらえた。

 

麗子は目を閉じて横たわっていた。低い光りが、この厳そかな白い肉の起伏をよく見せた。

 

中尉はいささか利己的な気持から、この美しい肉体の崩壊の有様を見ないですむ倖せを喜んだ。

 

中尉は忘れがたい風景をゆっくりと心に刻んだ。

 

片手で髪を弄びながら、片手でしずかに 美しい顔を撫で、目の赴くところに一つ一つ接吻した。富士額のしずかな冷たい額から、ほ のかな眉の下に長い睫に守られて閉じている目、形のよい鼻のたたずまい、厚みの程のよい 端正な唇のあいだからかすかにのぞいている歯のきらめき、やわらかな頬と怜悧な小さい顎、 ……これらが実に晴れやかな死顔を思わせ、中尉はやがて麗子が自ら刺すだろう白い咽喉元 を、何度も強く吸ってほの赤くしてしまった。

 

唇に戻って、唇を軽く圧し、自分の唇をその 唇の上に軽い舟のたゆたいのように揺れ動かした。目を閉じると、世界が揺籃のようになった。

 

落ちる腕の美しさ、それが帯びている丸みがそのままに手首のほうへ細まってゆく巧緻なすがた、そしてその先には、かつて結婚式の日に扇を握っていた繊細な指があった。

 

指の一本 一本は中尉の唇の前で、羞らうようにそれぞれの指のかげに隠れた。

 

……胸から腹へと辿る 天性の自然な括れは、柔らかなままに弾んだ力をたわめていて、そこから腰へひろがる豊か な曲線の予兆をなしながら、それなりに些かもだらしなさのない肉体の正しい規律のようなものを示していた。

 

光りから遠く隔たったその腹と腰の白さと豊かさは、大きな鉢に満々と 湛えられた乳のようで、ひときわ清らかな凹んだ癖は、そこに今し一粒の雨滴が強く穿った 新鮮な跡のようであった。

 

影の次第に濃く集まる部分に、毛はやさしく敏感に叢れ立ち、香 りの高い花の焦げるような匂いは、今は静まってはいない体のとめどもない揺動と共に、そのあたりに少しずつ高くなった。

 

ついに麗子は定かでない声音でこう言った。

「見せて……私にもお名残によく見せて」

 

こんな強い正当な要求は、今まで一度も妻の口から洩れたことがなく、それはいかにも最後まで慎しみが隠していたものが迸ったように聞かれたので、中尉は素直に横たわって妻に体を預けた。

 

白い揺蕩していた肉体はしなやかに身を起し、良人にされたとおりのことを良人に返そうという愛らしい願いに熱して、じっと彼女を見上げている中尉の目を、二本の白い指で流れるように撫でて瞑らせた。

 

麗子は瞼も赤らむ上気に頬をほてらせて、いとしさに堪えかねて、中尉の五分刈の頭を抱きしめた。乳房には短かい髪の毛が痛くさわり、良人の高い鼻は冷たくめり込み、息は乳房に熱くかかっていた。彼女は引き離して、その男らしい顔を眺めた。

 

凜々しい眉、閉ざされた目、秀でた鼻梁、きりりと結んだ美しい唇、……青い剃り跡の頬は灯を映して、なめらかに輝やいていた。麗子はそのおのおのに、ついで太い首筋に、強い盛り上った肩に、二枚の楯を張り合わせたような逞ましい胸とその樺色の乳首に接吻した。

 

胸の肉附のよい両脇が濃い影を落している腋窩には、毛の繁りに甘い暗鬱な匂いが立ち迷い、この匂いの甘さには何かしら青年の死の実感がこもっていた。

 

中尉の肌は麦畑のような輝やきを持ち、いたるとこ ろの筋肉はくっきりとした輪郭を露骨にあらわし、腹筋の筋目の下に、つつましい臍窩を絞っていた。

 

麗子は良人のこの若々しく引き締った腹、さかんな毛におおわれた謙虚な腹を見ているうちに、ここがやがてむごたらしく切り裂かれるのを思って、いとしさの余りそこに泣き伏して接吻を浴びせた。

 

横たわった中尉は自分の腹にそそがれる妻の涙を感じて、どんな劇烈な切腹の苦痛にも堪えようという勇気を固めた。

 

こうした経緯を経て二人がどれほどの至上の歓びを味わったかは言うまでもあるまい。中尉は雄々しく身を起し、悲しみと涙にぐったりした妻の体を、力強い腕に抱きしめた。二人は左右の頬を互いちがいに狂おしく触れ合わせた。

 

麗子の体は慄えていた。汗に濡れた胸と胸とはしっかりと貼り合わされ、二度と離れることは不可能に思われるほど、若い美しい肉体の隅々までが一つになった。

 

麗子は叫んだ。高みから奈落へ落ち、奈落から翼を得て、又目くるめく高みへまで天翔けった。

 

中尉は長駆する連隊旗手のように喘いだ。……そして、ひとめぐりがおわると又たちまち情意に溢れて、二人はふたたび相携えて、疲れるけしきもなく、一息に頂へ登って行った。

 

 

カフカ『城』

 

とある村に迷い込んだKという主人公が村人たちに翻弄されるというストーリー。
 

そのKが宿のカウンターの下で、見知らぬ女(娼婦?)とやっちゃうシーン。

感情が描写されない淡々としたセックスシーンです、

 

「好きな人! わたしの大好きな人!」と、彼女はささやいたが、Kのからだにはふれなかった。恋のために気が遠くなったみたいに仰向けに寝ころんで、両腕をのばしていた。

 

これからはじまる愛の陶酔をまえにしては、時間も無限であるらしかった。

 

なにやら小唄を口ずさんだが、うたっているというよりもため息をついているという感じだった。やがて、Kがいつまでもだまって考え事にひたっていたので、やにわに身を起こすと、子供がするようにKを引っ張りはじめた。

 

「いらっしゃい。こんなところじゃ、息がつまってしまってよ」

 

ふたりは抱き合った。Kの腕の中で、小さな体が燃えた。彼らは、失神したような状態でころげまわった。

 

Kは、この失神状態からたえずぬけだそうとこころみたが、どうにもならなかった。しばらくころげまわっているうちに、どすんとにぶい音をたてて部屋のドアにぶつかった。

 

それからは、こぼれたビールの水たまりや床一面にちらばったごみのなかに寝ころんでいた。そうして、ふたりの呼吸と心臓の鼓動がひとつになった何時間かがすぎていった。

筒井康隆『パプリカ』

『パプリカ』は何層にも重なった夢(夢の中で夢を見る)のストーリーです。

その夢の中で男女がセックスをするんですね。
 
「淫夢」「夢精」などの言葉にある通り、夢と性は意外と近しい関係にあります。
 
夢の中でのフワフワしたセックスシーン です。
 

 

本当のわたしじゃないのよ。わかってるよ。それがわかってるからこその、この高まる情感なのだろう。わたしは、本当に、これほど、はしたなくは、ないのよ。能勢さんを興奮させるためよ。

 

わかってる。もう興奮してるよ。急速に比例の直線。激情。ああ。パプリカ。もう、ぼくは、もうどうしようもなく、興奮してるよ。興奮してるよ。もう、どうしようもないよ。能勢は切なげに呻き、射精する。

 

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

フリーランスで校閲の仕事をしている主人公が、ふと仕事中に高3の頃の初体験を思い出すシーン。

 

水野くんはわたしの腕と手首をもって体を倒し、横にならせてから覆いかぶさるようにして体をのせ、唇をわたしの首すじに押しつけてきた。

 

それから顔を近づけてわたしの唇に何度かキスをした。わたしの意識はどんどん後ろに下がり、仰向けにされたわたしも、そこに重なる水野くんの後ろ姿もどんどん小さくなっていった。

 

部屋のなかに置き去りにされたわたしはいやに平板で奥ゆきがなく、まるでボール紙にでも描かれた絵みたいにみえた。

 

水野くんはワンピースのうえからあちこちをひとしきり撫でまわしたあと、太もものあいだに手を入れてそれをゆっくりうえへずらして下着に触った。わたしは反射的にいやだと言った。でも水野くんは息をさらに荒くさせながら体を上下させて首を横にふるだけだった。お尻と下着のあいだに入れられた手は小刻みに震えていて、わたしは水野くんの顔をみるのがこわかったので目を閉じていた。

 

もう一度わたしはいやだと言ったけれど、水野くんにはもうきこえないみたいだった。下着が膝のあたりまでおろされて、水野くんの足で足首まで押し下げられて片方の輪が脱げた。開かれた脚のあいだにズボンを脱いだ水野くんの下半身が入りこみ、しばらくしてペニスのさきが押しつけられた。わたしはもう一度いやだと言って身をよじり、両肘で水野くんの肩を押したけれど水野くんは止めなかった。

 

水野くんは指とペニスの先で入れる場所を交互に何度も確かめて、腰を引いたりずらしたりして何度も何度も試したけれどうまくいかず、水野くんは自分の指に何度も唾をたらしてわたしを触り、生暖かいペニスの先をそこに押し当てつづけた。

 

何度もそれをくりかえされるうちに焼けるような感触が走りはじめ、わたしは水野くんの肩をつかんだ。ほんとうにめりめりという音をたてながらペニスがなかへ入ってくるのがわかった。まるで巨大な木のてっぺんに巨大な斧が何度も何度も突き立てられ、そこに手を入れられて一息で真っぷたつに引き裂かれるような、それは信じられないほどの痛みだった。

 

あまりの痛みにわたしは動かないでと叫び、つぎの瞬間に水野くんは射精してしまった。

 

村上春樹『ノルウェイの森』

村上春樹は、『ノルウェイの森』を「100%の恋愛小説」と呼んでいます。
 
しかし、作中では、登場人物のうち5人が自殺しています。
 
 
どこか死の影がつきまとうセックスシーンです。
 

その夜、僕は直子と寝た。そうすることが正しかったのかどうか、僕にはわからない。二十年近く経った今でも、やはりそれはわからない。たぶん永遠にわからないだろうと思う。でもそのときはそうする以外にどうしようもなかったのだ。彼女は気をたかぶらせていたし、混乱していたし、僕にそれを鎮めてもらいたがっていた。
 
 
僕は部屋の電気を消し、ゆっくりとやさしく彼女の服を脱がせ、自分の服も脱いだ。そして抱きあった。
 
 
暖かい雨の夜で、我々は裸のままでも寒さを感じなかった。僕と直子は暗闇の中で無言のままお互いの体をさぐりあった。僕は彼女にくちづけし、乳房をやわらかく手で包んだ。直子は僕の固くなったペニスを握った。彼女のヴァギナはあたたかく濡れて僕を求めていた。
 
 
それでも僕が中に入ると彼女はひどく痛がった。はじめてなのかと訊くと、直子は肯いた。それで僕はちょっとわけがわからなくなってしまった。僕はずっとキズキと直子が寝ていたと思っていたからだ。
 
 
僕はペニスをいちばん奥まで入れて、そのまま動かさずにじっとして、彼女を長いあいだ抱きしめていた。そして彼女が落ちつきを見せるとゆっくりと動かし、長い時間をかけて射精した。
 
 
最後には直子は僕の体をしっかり抱きしめて声をあげた。僕がそれまでに聞いたオルガスムスの声の中でいちばん哀し気な声だった。

 

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』

「踊るんだ。音楽が続く限り」という呼び声が印象的な、村上春樹のおしゃれ小説です。
 
村上春樹のセックスシーンは、異世界への扉をひらく儀式のようです。

暗闇の中で僕は彼女の体の隅から隅までをひとつひとつ確かめていった。肩から、肘、手首、手のひら、そして十本の指の先まで。僕はどんな細かいところも抜かさなかった。
 
 
僕はそれを指で辿り、そこに封印をするみたいに唇をつけた。そして乳房と腹、脇腹、背中、足、そんなひとつひとつの形を僕は確かめ、そして封印をした。そうする必要があったのだ。そうしなくてはならなかったのだ。そして僕は彼女の柔らかな陰毛を手のひらでやさしく撫で、そこにもくちづけした。かっこう。それから性器にも。
 
 
現実なのだ、と僕は思った。
 
 
僕は何も言わなかったし、彼女も何も言わなかった。彼女はただ静かに呼吸をしていた。でも彼女もまた僕を求めていた。僕にはそれを感じることができた。彼女は僕が何を求めているのかがわかっていたし、それに合わせて微妙に姿勢を変えた。
 
 
僕は彼女の体を全部確かめてしまうと、もう一度彼女を腕の中にしっかりと抱きしめた。彼女の腕も僕の体をしっかりと抱いていた。彼女の吐く息は温かく、湿っていた。それは言葉にならない言葉を空中に浮かべていた。そして僕は彼女の中に入った。僕のペニスはとても固く、そして熱かった。それだけ激しく僕は彼女を求めていたのだ。僕はひどく乾いていたのだ。
 
 
最後にユミヨシさんは僕の腕を血がにじむくらい強く噛んだ。でもかまわない。これが現実なのだ。痛みと血。僕は彼女の腰を抱きながら、ゆっくりと射精した。とてもゆっくりと、順番を確かめるみたいに。

 

村上春樹『騎士団長殺し』

村上春樹の最新作ですが、今までの作風と少しちがっており、かなり日本的な情緒がただよっています。
 
ちなみに、「免色(めんしき)」は人名です。

それから彼女は何も言わずにソファの上で身体をずらせ、免色の膝の上に乗った。そして両腕を彼の身体にまわし、口づけをした。舌をからめあう深い本格的な口づけだった。長い口づけが続いたあと、彼女は手を伸ばして免色のズボンのベルトをゆるめ、彼のペニスを探った。そして硬くなったものを取りだし、それをしばらく手に握っていた。それから身をかがめて、ペニスを口にくわえた。長い舌先をそのまわりにゆっくりと這わせた。舌は滑らかで熱かった。
 
 
その一連の行為は彼を驚かせた。なぜなら彼女はセックスに関しては、どちらかといえば終始受け身だったしとくにオーラルセックスに関して──おこなうことに関してもおこなわれることに関しても──いつも少なからず抵抗感を抱いているように見受けられたからだ。
 
 
しかし今日はなぜか、彼女は自分から積極的にその行為を求めているようだった。いったい何が起こったのだろう、と彼はいぶかった。
 
 
それから彼女は急に立ち上がり、履いていた黒い上品なパンプスを放り出すように脱ぎ捨て、ワンピースの下に手を入れて手早くストッキングを下ろし、下着を下ろした。そしてもう一度彼の膝の上に乗って、片手を使って彼のペニスを自分の中に導き入れた。それは既に十分な湿り気を帯び、まるで生き物のように滑らかに自然に活動した。すべては驚くほど迅速におこなわれた(それもどちらかといえば彼女らしくないことだった。ゆっくりとした穏やかな動作が彼女の特徴だったから)。
 
 
気がついたときには、彼はもう彼女の内側にいて、その柔らかい襞が彼のペニスをそっくり包み、静かに、しかし躊躇なく締め上げていた。
それは彼が彼女とのあいだでこれまで経験したどのようなセックスとも、まったく違っていた。
 
 
そこには温かさと冷ややかさが、堅さと柔らかさが、そして受容と拒絶が同時に存在しているようだった。彼はそのような不思議に背反的な感触を持った。
 
 
しかしそれが具体的に何を意味するのか、よく理解できなかった。彼女は彼の上にまたがって、小さなボートに乗った人が大波に揺られるみたいに、激しく上下に身体を動かしていた。肩までの黒い髪が、強風に煽られる柳の枝のようにしなやかに宙で揺れていた。
 
 
抑制が失われ、喘ぎ声も次第に大きくなった。オフィスのドアをロックしたかどうか、免色には自信がなかった。したような気もするし、し忘れたような気もする。しかし今からドアを点検しにいくわけにもいかない。  
 
 
「避妊しなくてもいいの?」と彼は尋ねた。
 
 
彼女は避妊に関しては普段からとても神経質だった。「大丈夫よ、今日は」と彼女は彼の耳元で囁くように言った。「あなたが心配することは何もないの」
 
 
彼女に関する何もかもが、普段とは違っていた。まるで彼女の中に眠っていた別の人格が突然目を覚まし、彼女の精神と身体をそっくり乗っ取ってしまったかのようだった。たぶん今日は彼女にとって何か特別な日なのだろうと彼は想像した。女性の身体に関しては男には理解できないことがたくさんある。
 
 
彼女の動きは時間を追ってますます大胆にダイナミックになっていった。彼女の求めることを妨げないようにする以外に、彼にできることは何ひとつなかった。そしてやがて最終的な段階がやってきた。
 
 
彼が耐えきれずに射精をすると、それに合わせて彼女は異国の鳥のような声を短く上げ、彼女の子宮はそのときを待ち受けていたかのように、静液を奥に受けとめ、貪欲に吸い取った。暗闇の中で自分がわけのわからない動物に貪り食われているような、そんな混濁したイメージを彼は持った。

 
 

ヘミングウェイ『北ミシガンで』

(『北ミシガンで』は、この本に収録されています。)
 
ヘミングウェイといえば、マッチョで「ザ・男」的な作風だと思われがちですが、意外と女性の心情を描いた作品も多いです。
 
 
短編『北ミシガンで』では、清楚な女性が野蛮な男にちょっと無理やり気味にされてしまうシーンがあります。
 

ジムの片手がドレスの中に忍び込んで、胸を撫でさする。彼のもう一方の手はリズの膝に置かれていた。彼女は怖くてたまらず、ジムがどうするつもりかも分からなかったが、彼に身をすり寄せていた。
 
そのうち、彼女の膝でとても大きく感じられていたジムの手が離れたかと思うと、こんどは彼女の足に触れて、その上を這い上がってきた。
「だめよ、ジム」
リズは言った。
 
ジムはさらに上の方に手をすべらせた。
「いけないわ、ジム。やめて」
 
ジムも、彼の大きな手も、リズの言葉に耳を貸そうとはしなかった。
 
床板は堅かった。ジムはリズのドレスをまくりあげて、何かをしようとしている。彼女は怖いと思う一方で、それをほしがってもいた。ほしくてたまらなかったけれど、怖くもあった。
 
「いけないわ、ジム。だめよ」
「おれはしたいんだ。どうあってもするぞ。二人でするんだよ」
「だめよ、ジム。そんなこと、だめ。ねえ、いけないことだわ。ああ、とても大きいのね。痛い。やめて。ああ、ジム。ジム。ああ」

 
 
 




 
 

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