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ぜんぜん狼じゃない? チワワみたいな男たちが銀行強盗へ『狼たちの午後』レビュー ネタバレ

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銀行強盗を扱った映画はたくさんありますが、観客が求めるのはおおよそ次のようなものでしょう。

  • 人質解放を求める警察との取引の緊張感
  • 派手な銃撃戦
  • 予想外の脱出法

銀行強盗というのは、緊張感を生み出すお約束のシチュエーションですからね。

観客の期待は、上の3つに集約されるのではないでしょうか。

 

しかし! この映画は、上記の3つをどれ一つとして達成していません。

強盗犯たちはおマヌケで、滑稽。

「狼たちの午後」ではなく「チワワたちの午後です」

銃撃戦もないし、知能犯的な脱出をすることもない。

 

こんな映画がなぜ名作と言われているのか?

ちょっと考察してみましょう。

 

 

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あらすじ

真夏の日。

ニューヨーク市のブルックリンの小さな銀行に、ソニー(アル・パチーノ)たちが押し入る。

手早く金を奪って逃げるはずが、あっという間に警察に包囲され、計画は早くも破綻。

殺気立つ警察。カメラを抱えたマスコミたち。シュプレヒコールを叫ぶ無責任な群衆たち。

そんな中、ソニーの恋人が現場に連れてこられるが、その姿を見て群衆はどよめく。

なんとソニーの恋人は男だったのだ!

うだるような暑さのせいで、人質たちは徐々に疲弊していき……

日本語タイトルがおかしい?

日本語タイトルは『狼たちの午後』

原題は『Dog Day Afternoon』

 

「dog day」というのは盛夏、夏のまっさかりという意味。

 

英語には「every dog has his day」ということわざがあって、これは「誰にだって全盛期がある」という意味です。

 

原題をちゃんと訳すと、「盛夏の午後」

かっこよく意訳すると「栄光の一日の午後」とでもなるでしょうか。

 

原題のdayは単数形なので、盛夏の日は一日だけ。

つまりソニーの活躍は一日だけで終わって逮捕されるという結末を暗示していますね。

 

狼なんて意味はどこにもないんです。そもそもこの映画には、狼と呼べるほど野性的でカッコいい男は出てきません。

登場人物はみんな滑稽な感じで描かれてますからね。

 

日本語タイトルを考えた人よ。あなたはこの映画のどこに狼なんて見たんだい?

 

実話に基づいている

実はこの映画、実話に基づいています。

1972年にブルックリンで起こった銀行強盗事件が元ネタ。

 

この映画の主人公ソニーのモデルになった男は逮捕され、20年の刑を宣告されたそうです(実際には5年で釈放されている)。

なぜこの事件が有名になったかというと、犯人が犯行の動機を「ゲイである恋人の性別適合手術の手術費用を得るため」と語ったからです。

 

当時のアメリカでは、まだまだLGBTへの理解が少なかったから、この事件はセンセーショナルに報道されたみたいね

 

実在の人物を調べてみる

この映画の主人公ソニーのモデルになったのはこの人。

 

狼たちの午後 実際

実際の写真。警察に向かって何かを訴えているところでしょうか。英語版Wikipediaより


 

狼たちの午後 実際

映画版のアル・パチーノ https://www.youtube.com/watch?v=CZHS7zexXlUより

 

 

おー。たしかにアル・パチーノと似てるね。

このへんのアル・パチーノの役作りはさすが。

 

実際の人物はジョンという名前で、ゲイである恋人の性別適合手術の手術費用を得るために銀行強盗に及んだのは先ほども述べた通り。

 

その恋人がこちら。

狼たちの午後 実際

実際の写真。英語版Wikipediaより

 

名前はエデン。すでに性別適合手術を受けた後の写真なので女性にしか見えませんね。

 

映画ではクリス・サランドンという俳優が、性別適合手術を受ける前のエデンを演じています。

 

事件後の二人

銀行強盗後、あっけなく逮捕されたジョンは20年の刑に服しますが、わずか5年で出所。

 

しかもこの映画を撮るにあたって、ジョンは映画の収益の一部をもらったそうです。

ジョンはそのお金をエデンの手術費用に使ったらしい。

 

ジョンはまだ彼女を愛していたのかな?

 

ジョンが釈放された後も二人は時々会っていたそうですが、結局ジョンと結ばれることはなく、1987年にエデンは死亡しています。

 

手術に必要な大金を銀行強盗で得ようとするなんて、やっぱり愛の方向が間違ってるよね

愛という名の蛮勇なんて成功するわけないじゃん

 

アティカ! アティカ!

本編と直接は関係ありませんが、映画版の主人公が「アティカ! アティカ!」と叫んで群衆を煽るシーンがあります。

狼たちの午後 アルパチーノ アティカ

『狼たちの午後』より

アティカとは、アティカ刑務所の暴動のこと。

アティカ刑務所の暴動というのは、1971年にアメリカで発生した暴動事件。

過酷な待遇に耐えかねた囚人たちが刑務所を占拠したのに対して、政府側は武力をもって刑務所を奪還。多数の死者が出たという事件です。

政府の無慈悲な弾圧は、各所から批判されました。

 

主人公は群衆にアティカ刑務所の暴動事件を思い出させて、警察の不信感を煽り立てようとしていたわけです。

 

ちなみに、この「アティカ! アティカ!」というセリフはアメリカ映画協会によって名台詞ベスト100中第86位に選出されたそうです。

 

今でも政府に対するデモ行進などで、このセリフを叫んでる人がいる……かもね。

まとめ

この映画はほとんどドキュメンタリーに近いできばえです。

 

派手なシーンこそないけれど、当時風当たりが強かったゲイの男が、銀行強盗に及ぶ様を演じたアル・パチーノの入魂の演技は賞賛されるべきでしょう。

 

ぜひ、この映画は単なる娯楽映画ではなく、現実を忠実に切り取ったドキュメンタリー映画としてご覧ください。