Small+α すもぷら

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凸凹コンビが各地を巡礼する!イラン映画『一票のラブレター』レビュー ネタバレあり

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変わったタイトルですね。

投票所で書くあの無味乾燥な投票用紙がラブレターになるなんて、考えたことありますか?

 

イラン映画の魅力

イランの映画です。って言っても馴染みのない方が多いですよね。

 でも実はけっこう傑作が多かったりするんです。映画といえば、ハリウッド映画にばかり飛びついちゃう人はぜひ、他の国にも映画があるということを知ってほしい。

 もちろん、製作費はハリウッド映画に比べたら極小なので、ど派手なアクションシーンは期待できません。

 でもね。だからこそ、傑作になることがあるんです。

 なぜなら、製作費があまりにも多いと安易なアクションシーンに逃げてしまいがちだから。

 「脚本がどうもおもしろくないけど、アクションシーンを派手にしてお茶を濁そう」というスタンスで作られたハリウッド映画は、枚挙にいとまがありません。

 安易なアクションシーンに逃げることのできないイラン映画は、頭をひねって物語のあらすじを考えます。

 その結果、傑作が生まれることもあるんですよ。

 特にアスガル・ファルハーディというイラン人の映画監督はいま注目の天才です。傑作ぞろいなのでぜひ見てください。最近だと『セールスマン』が傑作です。

 

あらすじ

 イスラム教が根付いている、とある島。選挙管理委員の女が、民主主義を実現するために票集めに各地を巡ろうとする。

 女性の一人歩きは危険ということで、護衛に兵士が一人つくことになる。のっけから兵士は女性のことを軽視し、投票そのものにも否定的。

 しかも行く先々で、人々とトラブルを起こす。

 この凸凹コンビは、無事に票を集められるのか……。

 優しいタッチの裏にイスラム世界の厳しさが

 全体的に優しいタッチで描かれてます。凸凹コンビの掛け合いを見ているだけでもなかなか楽しめます。夫婦漫才みたいだし。

 でも、この裏にはとーっても厳しいイスラム世界の現実が隠れています。

 とにかくみんな民主主義に懐疑的なんです。

 あるおっさんは、「俺は神しか信じない。人間になんか投票できるか」と言ってのけるし、ある女性は「夫の許しを得ないと投票できない」と言う。

 女性だって男と同じく独立した個人であるという意識が欠けているんですね。

 イスラム世界には女性への差別が今も残っており、女性の権利が極端に制限されています。 

 レイプされた女性は男にレイプさせるような行動をするから悪いという論理で、被害者であるはずの女性が有罪になったりもするそうです。

イスラム教は伝統的な一神教だからね。個人がすべて平等であるという考えになかなか馴染みにくいのかもしれない

向こうでは女性は12歳で結婚できるのだ。

でも、それは自由恋愛の上で結婚するんじゃなくて、親や権力者が決めた相手と無理に結婚させられるわけですが……。

イスラム世界では、女性が女性でいるのは驚くほど大変なのだ。

 荒野にたたずむ信号機

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『一票のラブレター』

  頑固な兵士は、荒野にたたずむ赤信号を見て車を停車させる。他に車が一台もいないのは火を見るよりも明らかなのに。

 痺れを切らした女は車を降りて、「法律など無意味だ」と叫ぶ。選挙管理委員会の人間の言うセリフとしては衝撃的だけど、票集めがうまくいかないことに彼女もいらだっていたのでしょう。

 なんとなくこの映画全体を象徴するようなシーン。

 民主主義なんて、誰もいない荒野の赤信号のように無意味なものなのだろうか。

タイトルの意味はラストで回収

 さて、ここまで不明だったタイトルの意味はラストで明かされます。

 とりあえず各地をめぐって票を集めた女は、帰りの船に乗ろうとしますが乗り遅れてしまいます。

 すると、そこで気づきます。兵士の男の投票用紙をまだ受け取っていないことに。

 兵士の男も立派な有権者だったのです。

 男はおもむろに投票用紙に名前を書きます。しかし、それは候補者ではなく、女の名前でした。

 これが「一票のラブレター」ってやつですね。

 驚いた女が言います。

 「私は候補者じゃないわ」

 すると、すかさず「秘密投票のはずだ」と切り返す男。いい返しです。

 ここからが、あれ? っと思うんですが━━なんと女性は、迎えに来た飛行機に乗ってさっさと帰ってしまいます。

あれ? ここから二人のロマンスが始まるんじゃないの?

最後は、水の城が呆気なく崩れるように二人の関係は終わってしまいます。

まとめ

 凸凹コンビのおりなす優しいタッチのストーリーですが、背後には厳然たる現実が隠れています。

 ラストの唐突な終わり方も、「安易なハッピーエンドにするわけにはいかない」という製作者の思いの反映かもしれません。

 日本人の感性からは理解しかねるシーンも多いですが、遠く離れた異国のこともたまには真剣に考えないといけない時代かもしれません。特にこの令和という新時代は。

 イスラム世界の難民が、大量に日本になだれこんでこないとも限らないのです。